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史上最強の勇者ができるまで #いじめられっこナジュム

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体中傷だらけ、服だけは綺麗に整えられた青年が机に向かってなにやら熱心に書き込んでいる。
机の上には沢山の羊皮紙。そしてコルクボードに飾られた無数の精巧な絵。沢山の人々や風景が描かれており、どれもこれもが青年の大切な思い出のようだった。

青年の部屋は君たちでいうところ・・・8畳くらいの広さだろうか。木で作られた扉がある面と窓際の少年のいる机があるところの面以外は全て天井まで届く本棚でいっぱいだ。基本的にはぎっしりと本が敷き詰められているのだが、たまに本と本の間に観葉植物であろうものが置かれている。

さて、青年の部屋の観察はおいて置いて。読者の君たちはそろそろ青年が何を書いているのか、気になってきた頃だろう。かくいう私も少し気になってきたので、こっそりと後ろから覗いてみようと思う。・・・数人の仲間を引き連れて。

 

目の前が夜空に覆われたように暗くなる。その中で一際キラキラと輝くのは僕の頭蓋骨を噛み砕こうと鼻の先まで迫ってきたモンスターの涎まみれの牙だ。
そして二番目に、今度はとても美しくキラキラとして輝いているのは、僕と大きさ3メートルはあるモンスターのはるか後方にいる、少年。

「シュット・カイダ・ディカディメント、―滅べ」

銀色の少年はそう呟いて、僕の目の前のモンスターを文字通り滅ぼした。
その瞬間から、僕と僕の運命とやらは変わっていったんだろう。

これは、僕が最強の勇者に無理やりならさ

「あ゛!!!」

しかし、ああ、なんということだろう。青年が一生懸命丁寧な字でここまで書いたにもかかわらず。こっそり覗き込もうと誓い合った共犯者たちがこぞってその羽ペンを奪いだした。もちろん今これを読んでくれいている君たちのことではない。
―この物語の主人公である青年の、大切な大切な仲間たちが犯人だ。

「違いますわよナジュム、ここはこう書いておかねばですわ」

 

☆魔法使いの師匠はとっても美人でヴァン様はメロメロ☆

 

メロメロ?俺はメロメロになっているのか?

 

いや知りませんよっていうか勝手に書かないでくださいます師匠方!?

ていうか見ないで!見るなー!!!!

 

かてぇこというんじゃねーぜ!

ちょっと日記の中身見るだけじゃねえか!

 

皆変なこと勝手に書かないで、ナジュムの邪魔だよ。

 

ありがとう・・・というか

ここで青年はひっそりと筋骨隆々の男の文字が、濃い筆圧ながらも丸文字でかわいらしいことに驚いていた。笑うと修行という名目でしばかれるので黙っていたが。

わざわざ僕の日記に書かないで目の前にいるんだから会話してください。

そしてここで手記はしばらく途絶える。悲しいことに目の前で会話をし始めた青年の師匠とその友人が不穏な方向に騒ぎ出したのだ。
無理に奪って書いては奪い返され、消そうとしたのか擦られては書きなぐられ、羊皮紙をひっぱりあったのかぐしゃぐしゃになった箇所や破れかけた箇所が多々見られる。魔法でも使ったのだろうか、それとも拳や武器を持ち出したのだろうか。くすぶったり色が急激にどす黒く変わっていたり、鋭利なものでそぎきられた部分や、穴が開いた部分があった。

そうして最後のほうに羊皮紙を勝ち取ったであろう友人の愛情がこもった丁寧な時と、青年の焦っためちゃくちゃな文字が書きなぐられる。

そうしてナジュムと運命的な出会いを果たした銀の美少年ことノクス・ウル・アーベントは末永く二人で

 

「ノクスくん何書こうと思ってるのか考えたくないけど、そういう誤解を招くこと書くのやめて!?」

 

さてさて未だ彼らがわいわいがやがやと戯れているところ水をさすのは申し訳ないのだが。
ここからは君たち読者に対して、物語の全てを見届けた私が青年の書こうとした過去を語ろうと思う。語り部として、彼らの奇跡を文字に起こし綴っていくのだ。この冒頭から騒がしいこと極まりない青年とその友人、そして大人たちの出会いを。そして彼らの世界の物語を。

 

 

***

 

 

見ているだけで憂鬱になるような灰色に淀む空。まるで雨が降る前のように湿気を含んで湿った空気。
息を吸うだけで心が沈むような空と空気に、木漏れ日なんて微塵も感じさせないうっそうとした森。

―何が勇者だおばかども。皆ホネボキドラゴンに骨をボキボキされて痛い目を見ればいいんだ。

なんて思いながら少年は歩く。いまどき歴戦の戦士や大国を守る兵士でさえ一人では歩かないような森をたった一人で、さらに言えば樫の木の杖を突きながらとぼとぼと。

少年の名前はナジュム。ナジュム・アステール。
冒頭で騒いでいた青年の若かりし頃であり、この世界を救う勇者・・・ではなく。
やーいやーい弱虫~!悔しかったらあそこの森で肝だめしだ~!一人で行って帰ってこれたら勇者になれるぜ~!などと同年代のいじめっ子に騒ぎ立てられ村から送り出された、いわゆるいじめられっ子である。

彼が現在身につけているのは、そこらへんで拾って勝手に杖として使っている樫の木と、いじめっ子に「聖剣だ!」とにやにや馬鹿にした笑みとともに渡された土と埃と木屑で汚らしくなったボロボロの剣と、半泣きになりながら仕事で両親が家を出ているうちに物置から探して取ってきたこれまた埃だらけで錆だらけの盾の三つだ。残りはごく普通の村人が着る、麻布の服しか身に着けていない。
さらにいえば彼の家は裕福でもなんでもない一般家庭なので、麻布の服さえちょっぴり着古してくたびれている。

そんなかわいそうなナジュムはあいかわらず鬱蒼と木々の生い茂る獣道をびくびくしながら歩く。樫の杖を持ったほうの右の二の腕を寒そうに左手で何度もこすりながら地面をにらみつける。

ナジュムは、勇者や戦士とは程遠い頼りない格好をしながら暗い森の中を歩いている自分を嘆き、そして心の中でいじめっ子たち-マルドーソとドレフィス、そしてミリッシュ―を思いつく限りの最悪で汚い言葉で罵った。

 

現在ナジュムがいるのは、彼が住む村ガルブの北側にあるパウーラと呼ばれる森だ。別名恐怖の森。入ったら二度と戻ってこれない、恐ろしい怪物が住むといわれている森である。
ガルブ村の出入り口から蹴り出され、いじめっ子三人組にパウーラへと向かうよう北へ北へと追い掛け回されて辿り着いたナジュムは、引き返そうにも森の入り口付近で立ちふさがるいじめっ子たちに立ち向かえずにこの森に入るしかなかった。そうして今に至る。

 

「うぅう・・・こ、こわくない、こわくない・・・・・・」

 

ひたすらそう呟きながら、時折自分が踏む枯れ木や落ち葉、鳥の鳴き声、さらには風の音にさえもギャー!と叫ぶナジュム。
太陽が真上にある時間帯にもかかわらず、森の中に入った瞬間空は灰色に、空気は鉛のように、そして冷たくほの暗いあたりの雰囲気に加え、ここは頑丈な塀や侵入者用のトラップに囲まれた安全地帯の村ではない。
いつモンスターが出てもおかしくないのだ。たかが15歳の少年が恐怖を感じないわけがない。何しろここは恐怖の森パウーラ。村で力自慢をしている大人たちでさえ近寄るのをためらう場所なのだ。

何が楽しくていじめっ子に追い立てられ命がけの肝試しをしなければならないのだ。最近の子どもはしていいことと悪いことの区別がつかないものが多く恐ろしい。

 

震えるナジュムに呼応するように、彼の腰布に無理やり巻きつけられた錆だらけの剣がガチガチと音を立てる。手入れのされた綺麗な金属音ではない。耳障りで鈍い錆た鞘と柄がぶつかる音だ。

 

―あいつらわざとらしくボッロボロの剣渡してきて・・・!

 

ナジュムは樫の杖を握る手に大量の汗をかきながら怒る。振れば折れそうな、というかまず錆付きすぎて鞘から抜くことすらできない剣があまりに頼りなかったので、道中落ちていた硬い樫の枝を杖に道を進んできたが、心細さも限界だ。

そうしてそろそろ震えすぎて全身が筋肉痛になりそうになった頃。
今の今まで草木しか見えず道なき道だった視界が徐々に徐々に開けていき、ナジュムにとってただの恐怖の森だった景色が一変した。

 

「う~ん、死にそうだなぁ」

 

大きな獣脚に背中を踏みつけられた少年の後頭部に向かって。
涎をたらして牙をむいている恐ろしいモンスターがいる。
まさに今にも目の前で人が食い殺されそうな状況にある、恐ろしすぎる恐怖の森の景色へと変わったのだった。

 

「君、ちょっとその杖を貸してくれないか」

 

ナジュムの心臓が一度激しく脈打つ。

その後は彼の意思など無視して勝手にいまだかつてないほどの速度でドクドクと音を立て始める。体験したことがないほど激しい動悸に息がつまり、吐き気さえするが、呼吸することもできずに固まるナジュム。

それに対して、銀の髪を四速歩行のモンスターに涎まみれにされ、直径60センチはあるであろう立派な脚で背中を踏みつけられ、何ならご丁寧に六本の脚の指でがっしりと胴体をつかまれてうつぶせになっている少年はのんきである。
舌なめずりをしながら頭を噛み砕こうか柔らかい腹を食いやぶろうか考えているモンスターの下で、動けないナジュムをじっと見つめ、返ってこない反応に「やっぱり駄目か・・・」と溜息をついている。まるでモンスターが自分に危害を加えるとは思ってもいないような表情でだ。

 

ナジュムは一歩後ずさる。やっとの思いで体を動かしたナジュムに、銀髪の少年は「あ、動けるんだね」と目をしばたかせる。

全身を太い茶色の毛で覆い、人間の手のような形をした前脚と後脚を持った恐ろしいモンスターと、ソレとは対照的な少年から目を離せないナジュムだったが、ガクガクと震えながらさらに後ずさる。逃げなければ次は己が殺される。

ぎゅっと樫の枝を握って何歩か後ずさったナジュムに、少年は舌打ちをした。
「まあ普通そうだよね、これだから人間ってや―」
だが次の瞬間。

ナジュムの手が樫の枝を手放す。モンスターがうめき声を上げる。そうして自身に襲ってきた衝撃に少年は目を見開いた。

 

「に、逃げて!!今のうちに!!」

 

遠投のポーズをしたまま、声も体も情けなく震えさせたナジュムが叫ぶ。
少年は目を見開いたまま、後ずさったあとに助走をつけて枝を投げつけてきたナジュムを、そして自分の上にのっているモンスター・・・の鼻っ面にものの見事に当たった樫の枝を見る。むやみやたらと投げられたようだがちょうどこぶになっている硬い場所が当たったようだ。相当痛かったらしく少年の体を掴む指に力が入っている。

モンスターが低いうなり声を上げて吼える。数回頭を振った後、爬虫類のようにのっぺりとした顔をしわくちゃにゆがませてナジュムを睨む。と同時に走った。

 

絶叫。

次の瞬間ナジュムの目の前には涎まみれの鋭い牙とざらざらとした突起のある舌が迫っていた。
その一瞬の間に、少年は己の背中から離れていった脚とナジュムを交互に見て、目の前に落ちてきた樫の枝を手に取る。少年の耳にはナジュムの喉が張り裂けながら悲鳴搾り出す音が聞こえていた。
ナジュムが死を覚悟する間もなくただただ恐怖で叫び失禁しそうになるのと反対に、青年はモンスターの涎でべたつく髪を気にせずににっこりと笑う。

 

 

「シュット・カイダ・ディカディメント、滅べ」

 

そして物語は始まった。

 

 ―この少年、絶対やばいぞ―

 

他作品と平行してゆっくり更新していきたいと思います。
どうすれば面白く、そして読みやすくなるか試行錯誤していきますので、なにとぞよろしくお願いいたします。
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