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史上最強の勇者ができるまで #3 きちゃった

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パウーラ森から数百メートル離れた小道にて。鬱蒼と生い茂った森の一部から大量の鳥が飛んでいくのが見えたいじめっ子三人―マルドーソとドレフィス、そしてミリッシュは足を止めた。のっぽで頬にはそばかすをつけているマルドーソが、同い年にしては体格のいいドレフィスに声をかける。

 

「なあ、ナジュムのやつやばいんじゃないか」

 

ドレフィスは鬱陶しそうに肩をすくめた。破れた服の袖から見える自慢の筋肉をぴくぴく動かしながら、あのなよなよしたやつのことなんてどうでもいいと鼻息を荒くする。

 

「どうせすぐ泣きながら出てくらぁ」

「でもそう言ってもうこんなに暗くなっちゃったわよ」

 

すかさず声を上げたのはミリッシュ。栗毛色の髪先をゆるく跳ねさせ、高くくくり上げたポニーテールをぶんぶんと左右に揺らしながらドレフィスに非難めいた視線を送っている。
彼女はナジュムをいじめてはいるが、二人に比べるとやんちゃないたずら程度―よりによって命の危険があるかもしれない恐ろしい森に追い立てるつもりはなかったようだ。

すぐに帰ってくるというドレフィスの言葉に渋々、森から離れた場所でナジュムの泣きっ面が戻ってくることを待っていたのだが、いかんせん彼は―まさに命の危険にさらされていたので戻ってこない。

 

「モンスターに食べられちゃってたらどうすんのさ!」

 

―まさに今ナジュムは高笑いするノクスの隣で切り裂き食い殺そうとするドラゴンから転げ逃げているのだが―

 

「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・!」

もう一度同じ方向から大量の鳥が飛び立つ。ギャアギャアと鳴きながら、まるで逃げているかのように飛んでいく鳥たちに三人はナジュムの悲惨な姿を想像した。そして全員がようやく、ことの大きさを自覚したらしい。子どもの何の考えなしなおふざけが惨劇を生むことはよくあることだ。

いつまで経っても帰ってこないナジュムは死んでるかもしれない。

その考えが一致した瞬間、三人は暗くなり始めた道の上で目を合わせて声を搾り出した。マルドーソは顔を青ざめさせ、ドレフィスはもじもじと罰が悪そうに、そしてミリッシュはか細い声で「村に戻ろう」と口をそろえる。

 

「・・・俺たちのせいじゃないよな?」
「ば、ばれないよ」

 

だが三人の目的は同じでもその意味は違うようだ。
ナジュムのことをなかったことにしようとする二人にミリッシュが金切り声を上げる。

 

「何言ってんのアンタたち!!村に戻ってお父さんたちに言うのよ!助けに行かなきゃ!」

 

図体と態度はでかいくせに小心で最低なことを言う二人に、彼女のヒステリックな張り手が炸裂した。

 

ところかわって、パウーラの森内部。更にその中腹あたり。
地面を揺らして襲い掛かってくるドラゴンと腰を抜かして這いずり回って逃げようとする話題の少年ナジュム、そして空に浮かんで優雅にドラゴンを見るノクスの三人が、愉快な追いかけっこをしていた。

 

「やあ、愉快愉快。君ってばゴキブリのようだね。弱いくせに逃げるのだけは早い」

「え!?ギャッ!なに!!?ヒィッ!」

「理不尽な状況なのに真面目に僕の話を聞こうとしてるし逃げ出さないあたり本当に全身に馬鹿がしみついているのかな・・・まあ死なないように防護呪文は施しておこう」

「ノクスッくんッ!に、にげにげ、―ドワッ!逃げないと!危ないよ!ウワァア!!ていうか飛んでる!?空飛べるの!?ヒーッ!!」

 

ナジュムがカサカサと虫のように地面を這うしかできないのに対し、魔法で浮いているノクスの方がドラゴンには目立つらしい。

飛べない種類であるドラゴンはおよそ3メートルほどの巨体に似合わない小さな翼をばたつかせながらノクスを捕まえようと体を右往左往させている。
そうしてふよふよと飛ぶ蚊を叩き落とそうとするように暴れる足元で、その衝撃で地震のように揺れる地面に加えて巨大な鍵爪のついた足やら岩のように尖った尻尾やらが流れ弾のようにあたりをめちゃくちゃにする攻撃から命からがらなんとか逃げ延びているナジュム。

逃げながらもノクスの身を案じているナジュムは涙と鼻水と逃げるたびに散ってくる木の葉や泥でぐちゃぐちゃだ。なんとも汚い面である。だがノクスは必死に自分に逃げろだとか無謀だとか、ドラゴンの攻撃からなんとか逃げながら叫んでくるその姿に、何か思うことがあったのだろうか。無表情で黙り込んでナジュムを怯えさせた。

 

ヒョエーッ!無表情怖いよ!ノクスくん!ちょっと!ねえ!逃げたほうがいいってこれ!ねえええええ!!!」

 

ナジュムの頭上すれすれをドラゴンの爪が通り過ぎていく。文字通り風を切るその衝撃で、背後の木が数本切り倒された。へたり込み這い蹲り、抜けた腰で立って逃げることもできないのでナジュムはほとほと困り果てる。というより泣き叫ぶ。
今の状況に疑問を抱いたり誰のせいでこうなってるだとか考える暇などないのだ。そんな暇があるのなら逃げる時間に回さなければ一撃であの世行きである。

 

「僕のせいでこんな目にあっているって理解できてない・・・?それにしても・・・馬鹿も行き過ぎると呆れさえ通り越してあれになるのかな・・・とはいえ彼は所詮人間だし・・・」
「はいいいッ!!?アレが何だって!?」

「まあでも僕にとって確かに好ましい・・・・ううん!それより、防護呪文かけたから多少当たっても死にはしないよ!!安心するがいいさ!」

「ワーイ良かったァ!!ねえ多少ってどれぐらいの多少!?」

 

思考を中断したノクスは笑顔で空から杖を揺らすが、だからといっておいそれとあの恐ろしい攻撃に自ら当たりに行くわけはないのである。

泣き喚くナジュムは、疲れたのか唸りながらノクスを見つめてとまったドラゴンの辺りにさっと視線を這わす。

足をついただけで軽く沈む地面。
砕けた洞窟の壁面とそれにともなって所々崩れた岩肌。
そしてあたり一面竜巻でも起きたのかというほど木々がなぎ倒され草木もボロボロに散らかっている。

 

よくよく見れば木々や岩の切り裂かれた断面がギザギザになっているので、綺麗に切り裂かれたというよりは切ってそこから力押しで引きちぎったようにも見える。

それら全ての光景があの目の前にいる強靭な肉体と鱗を持った、大きさ3メートルほどのドラゴンによって引き起こされたものなのだから、それこそどんなに強力な防護呪文に守られていても絶対に、何があっても、万に一つもドラゴンの攻撃にかすりもしたくない!とナジュムが思うのも当然のことである。

 

「の、のノクスくーーーーーーーん!!!!俺どうすればいい!?戦うの!?」

「・・・・(シーン)」

「あっこれこのまま死ぬしかないな!!?!?」

ノクスは考え事に夢中なようだ。ナジュムは己の運命を悟る。

混乱したナジュムの叫びにノクスはフードの紐を風に靡かせて首を振る。ノクスの目的はこのドラゴンを殺さずに倒す、それだけだ。
樫の杖は彼の強大な魔力を制御する役目を持つ。ついでにそれを貸し与えたナジュムという人間がいることで多少なりとも魔法の手加減に役立つだろうとノクスは考えていた。
実際ナジュムと出会ったとき、手加減は成功した。距離が離れていることもあったが、あそこまで無力な人間に傷一つつけずに魔法を発動させあまつさえモンスターを倒せたことは今まで一度もない。

・・・というのは若干の建前で、本音としては、人間嫌いゆえに気まぐれかつ嫌がらせで連れてきたのもあるが。
たかが一度助けただけで馬鹿正直に懐き信用してくる正真正銘の馬鹿が裏切られたとき、どういった表情で泣き喚くのか。くだらない試練をとある人物たち―まあノクスに魔法を教えた師匠たちなのだが―から与えられた暇つぶしにナジュムを巻き込んでみたものの、ノクスは自分の想像とは違った泣き喚き方をするナジュムを他の人間とは違ってやはり好ましいと感じていた。

生粋の人間嫌いゆえに師匠たちに罪のない―たとえば彼の師匠の一人に言わせると、他人をおとりにしたり犠牲にしてでも逃げ出す性根の腐ったやつどものような―人間をむやみに殺してしまわないように不殺生の契りの呪いをかけられているほど、しつこいようだが本当に彼は人間が嫌いだ。
その契りを破ればどうなるか―実際は知らないのだが、彼の師は鬼のようなものたちばかりなのでただではすまないだろう。

だから直接危害を加えられない代わりにからかってやろうと思った。裏切ってやろうと思った。そうして醜い人間らしさを見せればナジュムを巻き込まない程度の威力になるであろう魔法を使ってドラゴンを死なない程度に倒した後、魔法で森の外へ飛ばしてやろうと思っていたのだが・・・

 

「・・・ふん、ばからしい」

 

いやまだわからない。

ノクスは銀の髪をふるふると横に揺らす。そうして目を閉じた。

 

相手は人間のなかでも更に下にいるような弱い存在だ。いざとなれば逃げ出すだろう。
きっとあの時樫を投げたのは人間がたまに出す勇気という名の無謀で実に衝動的な行為だ。自分が貸せといったから貸しただけ。きっとただ黙っていればあのまま逃げ去っていただろうし、どう見たって殺されそうな自分にたかが杖1本渡しただけで状況がどうにかなるだなんて考えて投げたわけではないだろうが、おそらく魔法を使わなければ投げた後すぐ一人で逃げたに違いない。

そう思考を締めくくるノクスは、樫の杖先を左右に揺らして視線を足元に向ける。

 

「まあ、とにもかくにも彼が死ねば師匠に怒られる。それに呪いもあるし・・・―トゥルス・アピス、盾よ彼を覆い守りたまえ」

 

自身を睨んでくるドラゴンの足元で泣き喚く人間。
その泣き面をじっと見つめたまま杖を振った彼は、更に追加で防護呪文を施す。

一方のナジュムはそれに気づくことなく、自分の問いには答えない無表情のノクスに声をかけるのはやめてドラゴンに意識を集中させることにした。

―本物の魔法使いってなんだとか聞きたいことは色々あったが、ナジュムはまず震えながらもどうにかして息を整えて次の攻撃から身を守ることに集中することにした。

自他共に認めるほどの弱虫でびびりな自分が何故こんな考えるだけで心臓が止まりそうなほど恐ろしい目に合わなければいけないのか神様とやらに問いただしたいが、それよりまずノクスが言っていた「ドラゴンを殺さずに倒す」ということをしなければならない。

肝心のノクスはどうするのだろうか。

―いやその前に何か武器を・・・そこまで考えて背中の剣に手を伸ばす。錆びて鞘から抜くことすらできなかったので、そのまま鞘もろとも止め具であるベルトから引き抜いて両手で構えた。

ぶるぶると震える剣先がなんとも情けないが、ナジュムはドラゴンから目を離さないままノクスに声をかけようとした。しかし、静かなノクスと同じく、先ほどから唸るばかりで攻撃の手を休めたドラゴンに気を取られて口を閉じる。

ドラゴンは長い首から続く浮き彫りになった背骨をぐっと曲げて羽を折りたたんでいる。後ろ脚には強い力を入れているのか鱗が軋んでぱきぱきと音を立てていた。
まっすぐとノクスを睨むドラゴンの眼光が鋭くなる。あ、と声を出そうとした瞬間にはもうドラゴンの足の裏は地面とさよならしていた。

 

「危ない!!!」
「!!」

 

そう、飛べはしなくても跳べるのだ。翼が使えないのなら純粋な脚力で。獲物に届かないのなら届く距離まで。ドラゴンは勢いよくジャンプした。
遅れて発せられたナジュムの悲鳴と目の前に迫るドラゴンの怒りに満ちた目にノクスはハッと目を瞬かせる。と同時に考える前に反射的に防護魔法を自身の目の前に展開した。

―ガチン!
金属同士がぶつかったような鋭く甲高い音にノクスは顔を歪める。耳元で鼓膜を貫いたその音は、自身のわずか数ミリ離れた場所で蒼い光とともに展開された防護魔法の盾とドラゴンの牙がぶつかり合って生じたものだった。

 

「っう!この、トカゲのくせに・・・!」

 

あまりの大きな音に耳鳴りがして目を細めたノクス。それはノクスを噛み砕こうとしたまま空中で固まったドラゴンも同じで、ドラゴンは己の牙から歯茎、そして顎に伝った衝撃にしかめっ面になり悔しそうに唸った。
そしてそのまま地面に落下していく。当然だ。彼は風の流れに乗って鳥のように跳んだのではなく純粋に飛んだのだから、重力に引かれるのは当然のことである。
ただ、本来なら飛ぶことのできる浮遊魔法を使っているノクスも、全方面に展開した防護魔法ごと噛みつかれたままなので一緒に落ちていった。

 

全身にかかる重力とぐんと腹から下にくる引っ張られる感覚に吐き気を覚えながら、しかしそのまま防護魔法を解くことができないノクスはドラゴンの着地した衝撃が盾に食い込んだままの牙から伝わってきて体を揺さぶられる。

 

「ノクスくん!こ、このやろう、俺が―!!!!」

 

何やら外でナジュムの叫び声が聞こえるが、このままだと文字通り手も足も出ない。ドラゴンなど威力を抑えてほどほどに一撃で倒せばいい、なんだかわからないがさっき人間に傷一つつけることなく攻撃魔法使えたし余裕余裕、なんて余裕ぶっていたノクスはここにきてやっと焦り始める。

このままだと確実に殺す。勿論ドラゴンではなくナジュムの話だ。

ドラゴンが死んでも師から与えられた試練を失敗しただけになるが、どれだけ威力を抑えられるかわからない、ましてや今どれぐらいの距離にいるのかさえわからないナジュムは確実に巻き込んでしまう。不殺生の契りのこともあるのでそれだけは余計に避けたい。

 

「おい、君、今何してる!?」

 

魔法で森の外に飛ばすのも対象を目視して正確に術式を展開しなければ不可能だ。
今までの余裕綽々かつ飄々とした声色とは変わって、ゴリゴリ盾を噛み潰そうと顎の力を強めるドラゴンの口から叫んだノクス。
全身の筋肉と主に顎周辺の血管を浮かび上がらせて鼻息を荒くさせているドラゴンの外で、ナジュムはガクガクと震えながら手を上げて返事をするのだった。

 

「や、やあ」

 

そのドラゴンの鼻先に両足と片手で捕まって、牙に挟まれたノクスを覗き込みながら。

 

「き、・・・・きちゃ、った・・・・・・・・・」
「―はっ?」

 

―いらっしゃいませ・・・じゃねえ!!!―
次回、ドラゴンを相手にナジュムが奮闘!・・・する、のか?

第三話も読んで下さってありがとうございます。
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