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悪ノ化身 2

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北には連なる山脈、東には人の営みが伺える街、南には砂丘のある海、西には未開の大地。

アルド大陸は世界中で最も小さかったが、それでも大陸中を歩き回るには、1日たりとも休まなくとも半年以上はかかる。

それも、モンスターに会わず、宿も簡単に取れ食料も気にしなくていいような状況ならばの話だ。
さらにいえば、数ある大陸の中で、面積は負けているくせにモンスターの多さでは随一を誇り続けるこの不名誉な場所では、そんなこと、全ての人生の幸運を使い果たしたとして叶うはずがないだろう。

もしかすると他の大陸ならば、一個人の全てのスキルを運に振り切っていれば、ひょっとするとひょっとして、幸運の女神が微笑むどころか満面の笑みで見守り続けてくれるならば、どうにか、と言ったところではあるが。

とはいえ、今はどこの大陸も問題を抱えてばかり。モンスターでなくとも簡単には旅をしたり、それどころか穏やかで慎ましい日々を送ることすら難しいご時世だ。

 

―残党のモンスターの暴走、そして倫理や人徳もない人間の暴動。

 

勇者が存在していたことで世界各地のモンスターが倒され、悪徳非道な人間が罰せられていたために平穏がもたらされていた時代はもう過ぎ去った。

また、魔王によって厳格に統率が取れていた時代も当の昔に終わった。

 

魔王。それはこの世の悪の頂点。

この世界の成り立ちから幾度となく繰り広げられていた“善”と“悪”の戦いで、どの時代にも様々な意志や思想の元にこの世界を支配するために悪を従える魔王が生まれてきた。
魔王となるぐらいの存在なのだから、彼らはそんじょそこらの小悪党とは一線を引いている。

そのため悪側であるモンスターにもその人間にも一種の統率ができていたのだ。
一種の美学とも言える自身の“悪”に反するモンスターや逆らうモンスター、人間をも排除していた彼らは、世界を混乱に陥れながらも皮肉なことに勇者とはまた違う平穏を世界に与えていたのだ。

 

魔王が存在することによって平和は消え、それに殺される人間たちがいても。

今の時代に比べればマシだったという声が上がることも少なくはない。

魔王と勇者が消えた今、統率は失われ、訪れるかと思われた安定した平和も消えたのだ。

 

勇者が未だ存在していれば真の平和は訪れていたのかもしれないが肝心の彼はもういない。

―勇者の責務の重さか人々の希望という名の一種の呪いに嫌気が差したのか。

とにもかくにも、彼は今から3年前、魔王に打ち勝ったあとぱったりと消息を絶ってしまったのだ。

 

そんな好機をかろうじて逃げ延びていたモンスターたちが逃さはずもないのは当然のことだろう。
運良く勇者の手から逃れ、魔王の支配もなくなったその暴れっぷりたるや、誰も彼もが思い出すのさえ恐ろしいというほど凄まじかった。

これ幸いと一斉に世界各地で動き出すモンスター。そしてその混乱に生じて盗み、殺人、暴動などを起こす人間。

今まで抑圧されてきたせいかその勢いはとどまることを知らなかった。

 

その中で我こそは勇者と名乗り上げ消えた勇者の名声に便乗しようとする声もあったが、それらはもれなくモンスターに殺され、果てには勇者殺しというモンスターなのか勇者を疎んでいた人間かそれ以外かにまたたく間に殺されてしまった。

勿論、大戦後も生き残っていた勇者の志を継ぐ戦士や、各大陸各国の兵士たちが、何とか混乱を治めようと尽力を盡くしてはいたのだが。

勇者殺しにモンスター、そして果てには同じ人間の悪逆の限りに、まだまだ平和は訪れそうにないのだった。

 

そうして世界中が混乱しているなかで、アルド大陸は冒頭で述べたモンスターの多さだけでなく元々魔王が拠点としていた場所もあったため、他の大陸より更に平和とは程遠かった。
滅ぼされてしまった街も村も数多く存在する。
だが、そんなアルド大陸の北と東のちょうど間に位置するところに、彼ら―ヴァンとヴィルヴァーレは住んでいた。

 

アルド大陸一の何でも屋。人助けなら何でもこなす二人組。

 

それが彼らの渾名だった。二人は元々、アルド大陸全土ではなく彼らが住んでいる村―アルケ村の中で何でも屋を生業としていたのだが、依頼さえあれば村の外でもよく働いた。

 

人探し、物探し、買い物の手伝い。
そんな誰でもできるものから、モンスター討伐という危険な依頼まで、なんでも。ただし人殺しや悪いことは勘弁だ!なんて書かれた宣伝ポスターが村には貼られている。

―実際依頼されたことはどんな危険なことでも困難なことでも殆どこなしていたので、凄腕だ。

そんなの噂だろうと鼻で笑うものもいれば、藁をもすがる勢いで人伝に依頼するものもいて、大陸中から依頼がくる。大抵が真偽の程を疑うので、アルケ村とその周辺の街以外からは滅多にこないのだが。

 

今回は、そんな彼らの評判をよく知っている街からの依頼だった。
アルケ村の東、約15kmほど離れた街。わざわざ護衛の兵士を何人も雇って、朝霧も晴れないうちからアル村に来たその街の副町長。

「最近街のはずれで現れた魚型のモンスターを討伐してほしい。」

日課である村周辺の見回りをし終わり、村を守る対モンスター用の魔術や罠のチェックもし、さあ朝食だと家で作ってきたサンドイッチを頬張って村の門の上で寛いでいたヴァンとヴィルヴァーレは突然の来訪にも関わらずその言葉に一もなく頷いた。

そしてすぐさま村を出て、10kmほど移動したところで目標を見つけ、走り回っていたのである。

えてして依頼はその日のうちに無事達成されたのだが、道中にも勿論モンスターは存在しているので襲ってくるそれらを排除しながらの移動である。

 

早朝に出たはずにもかかわらず、すでに太陽は真上、お昼時に二人の腹の虫が仲良く喚く。村に戻る頃には二人は返り血まみれだった。

 

かすり傷は一つも負っていない。疲労は多少あるがそこまではない。ただ腹はすいた。そして返り血が臭い。

そんなモンスターよりモンスターじみた体力と強さで悠々と依頼をこなし、村に帰還した二人を待っていたのは阿鼻叫喚だった。

 

「今回はちょっと張り切りすぎたぞ~!」

「いやああああああママぁああああああ!!!」「うわああああゾンビだあああああ」「キャーッ!!ヴァンさんたちが死んだー!!!!」

 

子どもと女性の絶叫が響き渡る。大人の男でさえウワッ!と声を上げた。

そりゃそうだろう。朝から姿が見えないな、などと東からの訪問者を知らぬ村人たちの前に、全身赤やら青やら紫やら、色とりどりのぬるついた液体でまみれた二人が急に現われれば、それはもう、驚く。

そこまで深い交流はなくとも顔見知りな村人でさえ悲鳴を上げ、子どもは泣き叫んだ。元兵士だと酔うとすぐ昔の話を延々と聞かせてくる男連中は顔をしかめた。

だが皆、一様に二人に怪我はないか心配する声しかあげない。ヴィルヴァーレはほっこりと笑って慌てる皆を宥めた。
そしてヴァンを振り返る。

 

「しかしこうも泣き叫ばれるとかわいそうだな。先に血を流してくるか?」

「依頼人を待たせることはいけない。俺は先に行く。」

淡々と返すヴァンは副町長がいるだろう宿屋の方向を視線で指した。
街への帰りが遅くなると危険だろうと判断してのことだった。

「そうか・・・なら私だけでも血を流してこよう!このままだと村の子ども全員の目が酷く腫れることになりかねないしなあ。ヴァンの着替えも持ってくるから話が終わったら宿屋で風呂でも貸して貰いたまえ。」

 

と、ここでヴィルヴァーレのすそをひっぱる子どもたちが自身を見つめていることにヴァンは気づいた。

ぼろぼろとただ涙を流す子から全力で絶叫している子など様々な姿に、ヴァンは自身の体を見る。そこでようやく、なるほど確かに、肌に血がこびりついているなと自覚を持った。

別に身なりを整えるのは帰宅してからでいいかと思っていたのだが。

-子どもは大人より耐性がなく、おびえさせるのはよくないことだ。そう考えて、彼はヴィルヴァーレに頷く。

 

「わかった。」

 

気を利かせてくれた村人が、湯でぬらされた布をくれる。
礼をいい後で新品で返すことを伝えると、ヴァンはさっと歩きながら肌についた血を落とし、服はほぼ黒いため血は目立たないと踏んだのかそのまま宿屋に向う。

 

ヴィルヴァーレが泣きつく子どもを宥めて家に戻り、血を流すまでに副町長との話は終わった。

モンスターが発する体液で農作物が荒れたり街を囲う石の壁がぬるつくばかりか急速に老朽化してしまったため、大変困っていたらしい。

えらく感謝されながら報酬を受け取ったヴァンは、彼らに日が暮れる前に帰ることを促す。

 

「この村からお前たちの村までにいた危険なモンスターは大体排除したと思うが、気をつけて戻ってくれ。」

 

そうしてさっと部屋をあとにしたヴァンは、ヴィルヴァーレがくるまでに宿屋の主人に風呂を借りた。

ヴィルヴァーレが着替えを持ってきた頃には、こびりついてカピカピになった髪も元通りになり、肌も何もかもすっかり綺麗になっていた。

寧ろ湯に浸かりすぎて皮膚がふやけそうだったが、悪びれた様子もなく軽口で謝る笑顔に肩をすくめるだけで終わる。

「空腹で倒れそうだ。早く行こう。」

「だな!」

すぐに着替えて主人に礼をし、宿を出たヴァンとヴィルヴァーレは肩を並べて腹を鳴らす。

そして今回の依頼について言い合いながら村の中心部にある酒場へと向かっていった。

 

「お前、話を聞いていなかったな」
「誰だって忘れることはあるのさ、あっはっは!」
「増殖型の特徴があると再三言われていただろ」
「まあまあまあ!」

 

―酒場 アレグリア―

 

そうアルダー(榛の木)製の板に焼印で書かれた看板が打ちつけられた店の前にヴィルヴァーレの笑い声が響く。
随分とこじんまりとはしていたが、外からも分かるほど賑わう店内に、ヴィルヴァーレはヴァンの背中を押しながら進み、己の頭をぶつけないよう背を少しだけ丸めて彼にとっては低すぎる扉をくぐっていった。

 

そうして喧騒の中に入っていけば、指摘は周囲の声に呑まれ、ヴァンも言っても無駄だと思ったのか黙ると受け取った報酬を半分に分ける作業に入った。

 

「よおお二人さん!今日はわざわざ東の方に行ってたんだって?!」
「ああ!私たちがいない間こっちでは何もなかったか?」
「あったんだよそれが!さっき血まみれのグールが村に出たってうちの女房が血相変えてたぜ!」
「あっはっは!安心したまえ、そのグールはもう綺麗さっぱり血を流してるし人も食わんさ!」
「人間じゃなくて美味い飯食いにくるグールなら大歓迎だよなあ」

 

顔見知りしかいない見慣れた景色の中、ヴィルヴァーレお気に入りの窓辺に足を進める二人は、途中途中掛けられる村人の声に応えていく。とはいえ応えているのは殆どがヴィルヴァーレだが。

 

ヴァンは彼が律儀に、そして酔っぱらいたちと賑やかに笑っている横で、目視とともに几帳面に指先でも銀貨を数える。
何度か確かめたあと、酔っ払いと会話しているヴィルヴァーレの脇を小突いて渡せば、当の本人は思い出したように報酬を受け取って、―そしてへらっと笑うと、適当にその中から数枚掴んで返した。

 

「数え間違いだ、うっかりさんめ!ほら。」

「間違ってないぞ。うっかりはお前だろ。」

たどり着いた席に座ろうと、椅子を引いたところで止められたヴァンは、再度「間違っているさ」とにこにこして頑なに受け取らないヴィルヴァーレに、少し考えをめぐらせて肩をすくめる。

引かれたまま所在なさげだった椅子に座ると、同じように座ったヴィルヴァーレの前に押しつけられる銀貨。

 

「報酬は半分。最初に決めたことだ。」

 

ヴァンは基本的に事前に決められたことを遵守する男だった。
「私は報酬はがんばった方に多く渡すべきだと思うがね。―って、毎回この話してるじゃないかあ。自分が少ないときには何も言わないくせに私のときだけ言うのはやめたまえよ」

 

子どもに諭すような声と、それに対して同じ言葉をもう一度返す声。机の上でジャラジャラと銀貨が行きかう。

ヴァンがざっと片手で移動させても、ヴィルヴァーレはそうやって寄せている端から彼より大きな手であっさりと銀貨を全部掴んで目の前に戻すものだから、ヴァンは堂々巡りだなと考えながら顔を上げる。

満面の笑みだ。ヴィルヴァーレの顔を見たヴァンは、その表情に何となく溜息をつく。
「・・・楽しいか」

「まあな!」

 

そろそろ机が摩擦して燃えるのではないかというほど何度も行きかっていた銀貨は、ようやく机の真ん中でとまった。

たれ目を更に下げさせて笑みを浮かべるヴィルヴァーレに、ヴァンはどうしたものかと黙った。

考えても考えても、目の前の男が納得するような対応は思い浮かばないのだが。
今までの経験上、そして相手の性格を考慮した上での結果、こうなったらどのような理由を述べてもヴィルヴァーレが頷くことはないと学んでいる。

 

「おい・・・わかってるだろ。多くあっても使わないなら意味がない」

 

だがヴァンにとっても不必要なものは不必要であることに違いはない。受け取る気はないことを意思表示するために、率直に告げたヴァンは窓辺に背を預けてこの話は終わりだと会話を切り上げた。

 

切り上げた。のだが。

 

やはりこうなったら頷かないのがヴィルヴァーレだ。その切り取られた言葉の端でさえ拾った彼は、目を伏せて無言を貫くヴァンの手を取るとそこに銀貨を乗せてぎゅっと握らせ、今度は有無を言わさない表情で笑う。

 

ヴィルヴァーレからすると、いらないと言われれば尚更渡したくなるものだ。無表情で見返してくる、ともすれば睨んでいるようにも見えるヴァンの手を握ったまま机の上に戻した。

 

「なら使えばいいさ。ヴァンの好きなことで」

「それがな―」「まーあまあ。さっ!今日は私のおごりだ、好きなだけ食べたまえよ」

 

反論―ヴァンにとってはただの事実の提示だが―しようとした口をすかさず塞ぐ。机の端に置かれた少しよれたメニューでそれを実行したヴィルヴァーレは、「な」の形で固まったそこにそのままそれを押し付け続け、つらつらとかかれたフードの名前を読み始めた。

 

もうヴァンが何を言っても意味がない。再び会話は切り上げられたのだ。

 

それを読み取ったヴァンは目を細めて、また少し考える仕草をする。それから暫くして動きを再開した彼は、ぷっつりと切られた会話の端と端を結ぶような真似はしなかった。

 

目の前で平然とどれを食べようか悩んでいる男から目を離すと、口にメニューを当てられたままカウンターに声をかける。

 

「いつものを頼む。量は3倍で。」

 

分厚いメニューの紙でくぐもった声に、ヴィルヴァーレは少しだけ会話を切り上げたことを後悔した。

 

 

***

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